洞窟探検家の俺にきた依頼は、本格的な測量を行う前にある洞窟を予備調査してほしいということだった。山にトンネルを通す計画なのだそうだが、その洞窟というか縦穴はいわくつきの場所だったのだ。
推定三十mの深さがある穴は、住民からは人捨穴ひとすてあなと呼ばれていた。有名なのは八丈島にあるそれだが、実は他の地域にも数か所ある。飢饉の際に死んだ村人や生きた老人を投げ入れたのだという。もちろん現代では許されてない。
町長に是非ぜひと勧められたお祓はらいが終わり、俺は装備をチェックする。心霊などの心配はしていない。してもしょうがないし。
幽霊の仕業であろうとなかろうと、岩が崩れれば死ぬ。起こってしまったことの原因を気にするよりも、その対応を的確に判断することの方が重要だ。
一度ガス検知器だけを降ろして危険がないかを確認し、サポートメンバーの林と一緒に穴を降りていく。
底に着くとかなり広い横穴が続いていることが判った。少し頭をかがめれば大人が充分に通れる大きさだ。
もう光は一切届かない。迷い込んで出れなかったのか、小動物の骨があちこちにある。ひょっとしたら人骨も混じっているかもしれない。装着したヘッドランプを頼りに奥へ潜っていく……。
「痛い!」
突然林が叫んだ。
「なんだこいつ……」
林が頭をつかんで持ち上げたのはおそらくムカデだが、でかい。長さが二メートルはありそうだ。古代種が生き残っていたのか、突然変異か。こんなに大きいのはさすがに知らない。表皮は白く透け、目は退化していた。だが牙が大きく普通の服なら簡単に貫通しそうだ。事実、長ズボンの林が噛まれている。
突然林が倒れた。
林の意識が朦朧としている。毒持ちか。早く病院に連れて行かないとまずい。俺は背の荷物を捨て、林を背負って穴の入り口まで急いだ。パキパキと足の下で細かい骨の砕ける音がする。
かさり、かさり。
振り返って頭を向けると白い悪魔が何匹も長い触手を動かしながら追ってきていた。
出口に辿り着いた俺は急いでザイルを腰に固定する。外にいるサポートメンバーに引き上げろ、と怒鳴った。さすがにここまで来れば無線が通じる。
俺と林の身体が浮いていく。ちらりと下を見る。日光が苦手らしく、あいつらはぐるりと引き返して消えた。
もしもの話だが──あいつらは穴に人が捨てられていたせいで餌にありつけていたのかもしれない。しかし今はもう……。
なら、あいつらはどうするのだろう?