あれは一昨年の2023年です。初夏の連休のちょうど終わりが見えてきた頃、あまりに暇で流していた動画の中に心霊スポット巡りのものがありました。何も考えずにリンクを開き流していると、その中に八王子城址についての紹介があったんです。その時、時刻は22時を回るかといった頃合いだったのですが、今思えば何故そんなことをしたのか不思議なのですが、ナイフとライトを鞄に詰め込んで、自転車に乗り走り出しました。
多摩川沿いに進み、北上して本宿トンネルを抜けて甲州街道へ。夜更けというには早い時間でしたが交通量が少ないことを良いことに甲州街道を制限速度でひた走り、日付が変わるまで時余裕のある状態で現地に着くことができました。途中、某国の象徴だった方々の墓稜があったので外からですが手を合わせる余裕もありました。
現地について一通り巡ってみましたが、なんてことのない、山の中の公園です。
そしてその時、本当に今思えば何故そんなことをしたのか不思議なのですが、城址裏側の山の方が気になったんです。時刻は、そうですね、1時を超えたくらいだったと思います。
自転車に乗り、北上して林道に入り…、圏央道八王子城址トンネル付近でしょうかね?藪が酷く、それ以上は自転車で、というかクロスバイクでは走行することが難しくなってきたんです。
鞄からナイフとライトを出し、進んでみましたが林道は立ち入りを規制こそされていませんが、明らかにその時の装備では不十分、せめて鉈のような大きな刃物も持たずに入るのは自殺行為と思えました。何より、林道から外れたら滑落するような斜面なのですが、手持ちの光源では藪に遮られ、足元以外の地面が見えないんです。
マウンテンパーカーにジーンズという、ラフな服装で足元は安全と多少ましですがナイフは肥後守1本、LEDライトも一晩もつかという装備で、鉈はおろかツェルトもザイルもない、言わば『山をナメてる』を具現化した格好です。
「これはむりだな…」
何かの熱に浮かされたような気分の私でしたが、そう呟いて道を引き返していきました。時刻は3時を過ぎ、そう間を開けず空が白みはじめる時間です。そして私は、その熱く滾る情念のまま自転車まで戻り、来た道とは別な道へ漕ぎだしました。
神奈川へ入り、魚介のような名前のジャンクション付近までは流して走り、そこから多摩川の終わりまで着いた頃にはもうお昼とは言い辛い時間になっていました。
さすがに眠くなり、かつ疲れも出始めた頃には、私はとある曰く付きの大欅の木がある施設の近くまで戻っていました。
「何か食べてから帰り、風呂入って寝よう…」
そう思い、飲食店を見ながら信号待ちをしていたら、来たんです。
…警察が。
そして職務質問からの所持品検査がはじまりました。
私の鞄にはバッテリやらがありますが、警官が雑に見ていたので、ライトやナイフも出して、『山道行くので持っていきました』と伝えました。
しかし、警官達はそのままパトカーへ連行し、自転車を近隣の交番へあずけたら警察署まで連行されました。
そして、警察署では3時間程同じ話をさせられ、疲れたので私は証拠としてGoogleMapの過去の行動履歴を見せようとしても全く見ないんです。
調書として警察官が纏めた内容は、「山に入るため」「山頂を目指す登山ではない、あくまで国有林地区を通過して心霊スポットを巡っていた」「滑落などの際にないと死にかねない」「民家や街灯まで1kmはあり、山中のため電波も怪しい」といったことは全部抜いた、『護身具として持っていた』とだけ記述されていました。
これが世に言う冤罪でっち上げか!と調書の作り直しを要求するも、拒否してくるため、作られた印刷に但書きや補記をたくさん加えて、内容が私の話と矛盾しないようにしてから署名しました。
当然怒られましたが、事実でないことなら署名はしないとキッパリ断り続けたところ、諦めたのか私の補記但書きのたくさん書かれたもので良くなり、身分証等の記録に移りました。
そこでとある国家資格免許証とマイナンバーカードを渡し、コピーして戻って来たときに驚愕の発言が。
「マイナンバーカードは記録保持に面倒な手続きがあるから、見なかったことにしていい?」
もう、こいつ本当に公務員か?という内容ですね。公文書として作成する取り調べ記録を変造しようとしてるんですよ…。記録から抹消して変造しようとするようですが、写しをどう使うつもりですか?と口から出たのは24時間以上寝てないからだけではなかったと、今でも思います。
結局、初老の別な人が来たら事務手続きはスムーズに進み、帰されました。
その後、1年以上が過ぎるまで何事もありませんでしたが、突然携帯に連絡が…。
出てみると、警察署からで押収していた装備品の返却についてでした。
送検まだ?等質問しても何も回答は貰えず、仕事で骨折し療養中だったのでリハビリがてら即警察署まで受け取りに、片手で自転車で行くことにしました。
あの日のように、熱に浮かされた訳ではなく、単純にリハビリです。
そして出てきた担当の刑事さんから言われた驚愕の内容…。
まず、私が拘束(任意だけど)されてたのは事案扱いにすらならず、検察まで情報は行ってないということ。
…まぁそうだよな。山道行くから持ってたナイフ(刃渡り8cmの肥後守)で銃刀法違反は無理だよね。警察署までは問題ないけど、その後の取り調べはアウトだもんね。調書も但書きで山行ってたとか書かれるって、意図的に抜いて無理矢理立件しようとしたの丸分かりだもんね。ほかの警官に引き継いだら、ガチで免職になるやり方してるから勾留出来んよね。GoogleMapの記録見なかったのは、見たのカメラに残ると普通にその場で頭下げて帰す状況だったからだもんね。
いや、分かってて黙ってたんだよね。取り調べ初体験だったから。
今更返されたのは、隠してたのが最近バレて問題になったから進んだそうです。
そしてその方達、今は警視庁管内では公務員してないそうです。
まぁ、マトモな署長ならそうするよね、表に出たら自分のキャリア吹っ飛ぶから。
これが、私が八王子城址へ行って体験した、幽霊より生きた人間が怖いという話。