これは実際に私が体験した話です。
友達と2人で遊んでいたときのこと。
なんの話題からか正丸トンネルに女の幽霊が出るという話になり、じゃあ今から行ってみようということになりました。
時間は深夜の1時ごろ。
私が聞いた正丸トンネルの噂は「正丸トンネルで車を停めていると女性の声が聞こえてくる、そして車の中に女性が乗り込んでくる」といったものでした。
正直わたしたちは怖いものが苦手でなかば度胸試しみたいな目的でした。
なので最初は車を停めずにそのまま通り過ぎて様子を見よう、何もなければトンネルに戻って車を停めるという計画をたてました。
内心はワーワーキャーキャー騒いで通り過ぎただけで終わるだろうと思っていましたし、友達も同じように考えていたと思います。
そしていよいよ正丸トンネルに到着しました。
他に車はいなかったので気分を味わうために徐行で進みます。
予想とは違い誰も騒がずトンネル内の冷たい空気を噛み締めているかのようにみんな口を閉じていました。
すると突然、車が停車しました。
助手席に乗っていた私は「ちょっとふざけないでw早く進んでよw」と笑いながら運転をしている友達に声をかけました。
やっと声を出せたことに少しホッとしたというか安堵感のようなものがありました。
緊張の糸が解けて自然に表情がほころんで・・・
しかし運転をしている友達の顔は青ざめてまっすぐ前を向いているだけでした。
私の声は届いていないのかこちらを振り向きもしません。
私はもう一度「どうしたのw早く行ってよw」と笑いながらも少し語気を強めて話しかけました。
すると友達はボソっと「進まないの・・・」とだけささやきました。
真剣な顔でそう話す友達を私は信じることができません。
だって車のエンジン音は聞こえていたんです。
ただブレーキを踏んで車を停めているだけだと。
私を怖がらせようと演技をしているだけだと。
ふと運転席の足元を見るとブレーキペダルの上に足は置かれていませんでした。
それどころか友達の足はアクセルペダルを思いっきり踏んでいました。
それに合わせてエンジン音がブオオオオンをどんどん大きくなります。
それなのに車は少しも前に進みません。
車ってどんな仕組みだっけ?アクセル踏んでも進まないいことなんてあったっけ?サイドブレーキを踏んだ?でもそれなら踏んだときに私が気づくか。
冷静なのかパニックなのか自分自身でもわからず、とにかく現状を受け入れようと必死だったのかもしれません。
なにかないかと周りを見渡しているとサイドミラーに映る白い影に気づきました。
白い影は少しずつ近づいてきます。
ああ、これが女性の幽霊か。本当にいたんだ。
なぜ自分がこんなにも冷静なのかわかりません。
とにかく車を走らせるために友達を落ち着かせなければいけないと思っていたのでしょう。
どうしようどうしようと混乱している友達に優しく声をかけて、アクセルを一度離してみたり、サイドブレーキを踏んで解除してみたり、ハンドルを動かしてみたりと試してもらいました。
ふと横目でサイドミラーを見ると小さかった白い影がだんだん大きくなっています。
友達に気づかれてはいけない。
とにかく動かせるものは動かしてみよう。
運転席に手を伸ばしてワイパーを動かしてみる。
さらに手を伸ばして方向指示器のレバーを動かしてみる。
手を引っ込めようとしたときにクラクションを押してしまう。
すると突然車は凄い勢いで前に進み出しました。
友達は驚いてアクセルから足を離したのが幸いで、スピードはあまり出ず壁に衝突するなんてことはありませんでした。
車はトンネルを抜けてそのまま明るい方向に進みます。
ようやく人のいる場所までたどり着き車を停めました。
「ビックリしたね。車が急に動かなくなるなんて。あれ心霊現象だったのかな?」
そう言っている友達の顔からは緊張感はなく安心しきっていました。
もう終わったと安堵しているようです。
「そんな怖がらないでももう大丈夫だよ。」
不安な顔をしている私に友達は優しく声をかけてきます。
でも私は不安で不安で仕方ありません。
白い影はまだついてきているんじゃないかと。
どこまでも追いかけてくるんじゃないかと。
怖くてサイドミラーは見れませんでした。
あれから数ヶ月たった今でも白い影が近くまで迫ってきているんじゃないかと不安でしょうがないです。