私が顔振峠で女性の霊を目撃したときの話です。
高校を卒業したばかりのころ、友人とバイクでこのあたりを走っていました。
顔振峠が心霊スポットということは知らずよく通っていた道でした。
しかしその日だけはある場所に入った途端、雰囲気がかわり空気が重くなったのを感じました。
たしか6月にしては暑い日だったのを覚えていますが、急に体が震えるほどの寒さに全身を襲われました。
そのときはまだ恐怖というよりは「なんだろう?」という好奇心のほうが勝っていました。
スピードを落とし周囲をキョロキョロと見回していると林のほうに白装束の女性が立っているのが見えました。
すぐそばを走っていた友人に「あれ見てみろよ」と首を振って合図をすると、友人も林のほうにジッと視線をやっていました。
女性は私を見ているのか見ていないのかわからない顔で私のほうに顔を向けていました。
だんだん不気味になりようやく恐怖心が湧き上がっていました。
友人にもう行くぞと合図を出して逃げるようにスピードを上げました。
峠を抜けて脇道にバイクを停めると、すぐ後ろに友人もバイクを停めてこちらに歩み寄ってきました。
友人は「急にどうしたんだ?」と不思議そうな顔をしていました。
「あの女なんか変な感じしただろ?変な顔でずっとこっちを見てるし、大体なんであんな場所に…」
と私が言いかけたところで友人が「女?なんの話だ?」と聞いてきました。
「いや林に女が立ってただろ?合図したじゃん」と言うと、友人は「あ~」と相づちのような空返事をしました。
話を聞くと、友人は合図に気づいて林のほうを見たけどなにも見えなかったといいます。
なにがあるんだと聞き返そうと思って振り向いたときには、私がスピードを上げてどんどん前に行ってしまっていたそうです。
どうやら白装束の女性は私にだけしか見えていなかったようです。
こちらを見ているのに目の焦点があっていない何とも言えない表情が忘れられません。
あのあと事故にあったとか大怪我をしたなんてことはなく無事に過ごせています。
ただ顔振峠だけは二度と通ることはありません。