これは僕が小学生のときに名栗げんきプラザへ林間学校で泊まったときの話です。
名栗げんきプラザは豊かな自然に囲まれた施設で日中は楽しくカヌーやキャンプファイヤーを楽しんだ。そして夜になると友達数人と肝試しをしようという話になった。
僕たちは消灯後、こっそり部屋を抜け出して建物の奥にある誰も使っていない空き部屋へ向かった。廊下の灯りは薄暗く、静寂の中で僕たちの足音だけが響いていた。そして奥の部屋に足を踏み入れた瞬間、僕たちは異様な空気を感じた。まるで誰かがじっとこちらを見ているような重苦しい視線。
「なあ、やっぱり戻らない?」と友達が言った瞬間――。
「コン…コン…」
部屋の外から一定のリズムで廊下を歩く足音が聞こえてきた。最初は誰かのイタズラかと思ったがその音は徐々に僕たちの方へ近づいてくる。息を潜めて様子を伺っていると足音が部屋の前でピタリと止まり、次の瞬間――「ガチャガチャガチャッ!」とドアノブが勢いよく揺れた。
僕たちは息を呑み固まっていた。ドアの外からは微かに「ねえ、入れて…」という囁き声が聞こえた。僕は震えながらみんなと目を合わせるが、誰も動くことができなかった。
それからとても長い時間が経ったように感じたけど、実際はほんの数十秒だったと思う。ドアの外から気配が消えた。
友達の一人がゆっくりと立ち上がり、ドアをそっと少しだけ開けた。その瞬間、小さな悲鳴が聞こえた。
「向こうに誰か立ってる…」
僕たちは慌てて部屋を飛び出し、必死に宿泊棟の自室へと逃げ戻った。しかし逃げ込んだ後も廊下から足音がゆっくりと近づいてくるのを感じ、布団に潜り込んで震えていた。
翌朝、先生に夜の出来事を話すと「そんなことはよくあるよ」と苦笑いしながら、「ここでは昔、夜中に迷子になった子がいたらしい」と言われた。その子は施設の奥で発見されたが、怯えきって何も話さず、それ以来夜になると施設の廊下を歩く音が聞こえるという噂が広まったらしい。
今でもあの足音は夜になると誰かの部屋の前で立ち止まっているのかもしれない…。