これは40年ほど前のお話です
ある日校内で、他のクラスの生徒が入院したと話題になっておりました。
「T君が深夜に生駒山上遊園地へ侵入して、ジェットコースターから落ちた」
学科は違えど、時々遊びに合流するグループの奴でした。
私はその日の帰りに、友人達と見舞いに行くことになりました。
「おお、お前らありがとうな」
T君は片足を骨折しておりベッドに寝ていましたが、本人は元気そうに笑っています。
T君は「ペダルを足で漕ぐモノレールのような乗り物」から落下したそうです。
なぜ落下したのか。
なんとそれは、調子に乗ってレールの上を歩いたのだとか。
そのあと警察や救急車が来て騒ぎになり、その行為はもちろん社会的に許容される物ではありません。
入院と同時に、T君は当然停学となりました。
皆が「なんでそんなバカなことをしたんや」などとT君を責めます。
だいたい話が落ち着いた頃に、T君は険しい顔になり声のトーンが変わりました。
「いやな、信じられへんと思うんやけど、お前らには本当の話をすわ」
ヤンチャではあった彼の行為は褒められた事ではありませんが、人の良いT君の真剣な表情に皆がシンとしました。
この時私達は、事実である可能性の高いその恐ろしい怪談を聞くことになります。
落下事故当事の夜。
T君達は数人で車2台に分かれて生駒山頂遊園地へ行きました。
通電していない遊具に乗ったりと、皆で騒いでおりました。
そして「例の足漕ぎ式モノレール」に乗ろうという事になりました。
真っ暗闇で乗るそれは、さぞスリルがありそうだと考えたのでしょう。
乗り物は留め具に繋がれ、歯止めされておりました。
もちろん、素人の学生ごときが簡単には外せません。
皆は諦めたのですが、なんとT君はモノレールの上を歩き始めました。
地上から数メートルの高さにあるモノレール、ましてや夜です。
女子は「危ないってー」と止めますが、男子は「いいぞいいぞ」と盛り上がる感じでしょうか。
皆の盛り上がりに調子に乗ったT君は、レールを這いつつどんどん進みます。
T君はそのまま一周してしまおうと、レールを進みました。
コースの中腹辺りには来ただろう時のことでした。
なにやらレールからコン、コン、と音が聞こえてきます。
これは誰か逆回りして前から来ているなと考えました。
コン、コン、コン、コン、
いよいよ音が近くなって、前方から人影が見えてきますが、暗くて誰だかわかりません。
T君は立ち上がって、前から来る奴を笑わせてやろうと、面白ポーズをとって構えました。
コンコンコンコン
なんと信じられないことに、前から聞こえる足音は走っているのです。
こんな危険なレールの上を走るなんて信じられない。
コンコンコンコンコンコンコンコン
次第に足音は早くなり、このスピードで来られたら危ないと思ったT君は叫びました。
「ストップストップ!俺ここや、ぶつかるぞ!止まれ!」
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
しかし足音は止まるどころか、異常なまでに速度を上げて近付いてきます。
いよいよヤバいと思ったT君は、逆方向へ進もうとUターンします。
後ろに振り返るその直前、前から来る者の姿が一瞬見えて、心臓がドクンとなりました。
そこにはなんと、ずぶ濡れの少年が水しぶきを散らしながらレール上を走って来ているのです。
こんな時間、こんな場所で、小学生くらいの少年がずぶ濡れでレール上を走っている。
「この世の者ではない」
ハッキリとそう感じたT君は、怖すぎて声も出ず、とにかく進んできたレールを戻ろうと必死で走ります。
落ちないよう慎重に這ってきたレールなのに、走るなんて正気ではありません。
しかし後ろに迫っている者は、どう考えてもこの世の者とは思えないので、T君は死に物狂いで走って逃げました。
もうすぐカーブという場所に差し掛かると、さすがに危なくて、冷静に状況を見ようとします。
すると、いつの間にか後ろから気配がなくなっています。
さっきまで聞こえていた少年の足音もしない。
そして、さすがにこの速度のままカーブは走り抜けられません。
カーブ手前でT君は少しずつペースを落としてみると、やはり後ろからの追っ手の足音も気配もないので、一端足を止めました。
そしてT君は息も絶え絶えで、後ろを振り替えってみました。
「今思えば、後ろを振り返らなかったら良かったのかもしれない」
T君は、そう後悔します。
振り返ったその目の前に、ずぶ濡れの少年がいました。
T君はそこから先は覚えていないそうです。
なぜなら、レールから足を踏み外して落下してしまい、そのまま気を失って友達が救急車を呼んだという顛末だったそうです。
T君は一体なぜそのような少年と遭遇したのか。
過去にこの施設で事故にあった少年の霊だったのか、あるいは遊園地創設よりも昔に何かあったのかは、今ではもう知る術もありません。