奈良の天理ダムではよく幽霊が目撃されているらしいです。なんでも自殺が多いとかで、知人に聞いた話では天理ダムを通ったら寒気がしたと言っていました。温かい真昼間なのに鳥肌が立ちっぱなしだったそうです。
私は怖いのが苦手なのでこのような場所は通らないようにしていたのですが、緊急の用事でどうしても天理ダムの前を通らなければいけないときがありました。しかも夜中に・・・。
最初は民家もあってそれほど不気味な感じはしなかったのですが、天理ダムに近づくにつれ街灯が少なくなってきました。次第に恐怖心が出てきてさっさと通り抜けたいと思うのですが道は薄暗くカーブが多いためスピードは出せません。
そしてついに天理ダムの目の前にやってきました。昼間でも不気味な場所なのに怖がりの自分が夜中に通ることになるなんて・・・。
恐怖心には勝てません、危険ですがスピードを出してこんな場所は早く抜けてしまおう。そう思ったときに、ふとダムの上を見るとお爺さんが立っていることに気づきました。
月明りに照らされるお爺さんの姿がハッキリと見えました。ただただボーっとダムを覗き込んでいます。
こんな時間に・・・、あんな場所で・・・、一人でボーっと立っている・・・。あれはもう間違いなく幽霊だという確信を持ちました。
すぐに視線を前方に移しとにかく運転に集中しました。いま見たのを吹っ切るためにどんどんスピードをあげます。ダムの横を通り過ぎ山道を進んでいきます。
ようやく明るい道に出ました。なぜか自分でも不思議なくらい冷静でした。普段の私なら泣き叫ぶか気絶しているところです。それなのに「あれはなんだったんだろう」「ヤバイものを見ちゃったなぁ」と運転をしながら考える余裕がありました。
そんなとき、道の端に人が立っているのが見えました。よく見ると先ほどのお爺さんでした。無表情という言葉では表せられないほど感情のない無機質な表情でした。まるでお面のように生気を感じません。
私をじーっと見つめています。私は叫びながらお爺さんの横を走り去りました。
翌日には神社に行きお祓いをしてもらいました。あのお爺さんにはもう会っていません。それでもあの無表情の顔を忘れることはできません。