先日、友人3人と西湖に遊びに行った時のことだ。
観光スポットをいくつか回って日も暮れ始めた頃、幽霊が出るって噂のトンネルに行ってみようということになった。薄曇りで、霧雨が降っていて、そーいう場所に行くのは最適の日。
三人でワイワイしながら車を走らせ、トンネルを通ったが、別に何も起こらない。たいがい、こーいう噂の場所ってのは何も起こらないのだ。車をUターンさせ、三回ほどトンネルを潜ったが、幽霊どころか、人っこ一人、車一台通らなかった。
すると、河口湖側のトンネル出口右側の空き地に「登山路」と書かれた小さな看板が見えた。興味本位でちょっとだけ行ってみようということになり、空き地に車を停めると、三人で草だらけの登山路を登り始めた。ここを利用する登山者はほとんどいないんだな、そう思えるような路だった。山から落ちてきたらしい石がゴロゴロしていて、路は草やツタが伸び放題。それでも2〜3分歩くと、やがて開けた場所についた。
膝丈くらいに伸びた雑草の生い茂る広場の突き当たりには、コンクリートで塞がれた古いトンネルがあった。ここが旧トンネルなんだな、そんなことを話しながらブラブラ広場を歩き回っていると、右手の奥に「登山入り口」という小さな看板がまた立っていて、山へ続くらしい獣路のような小路があった。その路の脇には、粗末な公衆トイレがある。トイレの入り口はかろうじて分かるものの、生い茂る草木に埋もれてトイレは半分以上隠れて見えない。
すると、友人の一人が急に(大)をもよおしてきて、トイレに行きたいと言い出した。このトイレを使えば? 冗談半分に言うと、こんなトコでできるわけないだろう! 彼は少し怒って言い返した。仕方がないので、わたしたちは人里に戻ることにした。
登山路を降りて車に乗った時のことだ。わたしはジーンズのポケットに入れておいたケータイが無いのに気がついた。車内を調べたがどこにも見当たらない。さっき車を降りる前までは、確かにケータイはポケットに入っていたのに。
登山路のどこかにケータイを落としてきたらしい
わたしが言うと、
探してこいよ
友人たちはサラッと答えた。
トイレに行きたくてしょうがない友人は少しイライラしているようで、一緒に行ってくれとも言えず、わたしは一人でケータイを探しながら登山路を歩いた。ケータイは旧トンネル前の空き地入り口付近に落ちていた。ああ良かった、ホッとして車に戻ると、友人たちが少し青ざめてわたしの顔を見ていた。
大丈夫だったか?
そう言葉をかけられたので、ああケータイ見つかったよ、わたしが答えると、そうじゃなくて、誰かに会わなかったか?と、訊くのだ。別に誰にも会わなかったけど、そう答えると、友人たちは顔を見合わせてこう言った。
わたしがケータイを探しに登山路に入って行ったすぐあと、新トンネルから赤ん坊を抱いた女の人が出て来て、わたしを追うように登山路を登って行った、 というのだ。
わたしは友人たちにからかわれているのかと思った。霧雨が降るこんな夕暮れ時に、赤ん坊を抱いた女の人がこんな場所を散歩するハズがない。それに、登山路の両側は脇道もなく、草木が生い茂っていて、人が隠れられるような場所もない。わたしがケータイをみつけて戻ってくる間、もちろん、誰ともすれ違わなかった。
からかってんだろう、気味悪くなって友人たちを問いつめたが、彼等は真顔でわたしの顔を見つめ返した。それから、誰もいない草だらけの登山路に視線を移した。三人同時に鳥肌がたち、わたしたちは急いでエンジンをふかすと、逃げるようにその場を離れたのだ。
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