私は自転車に乗って遠くまで出かけるのが好きです。その日はまだ行ったことのない場所に行ってみようと思い山のある方角へ行ってみました。
だいぶ遠くまで来たと思います。見渡す限り山と田んぼ。住居もありますが隣の家まで数十メートルは離れているような場所。人通りも少なく車もほとんど通らないような道なのでサイクリングには最適といえます。
少し休憩しようと自転車を降りたとき、ふと目の前の森が気になりました。よく見ると木々や雑草の隙間からブロック塀が少しだけ見えていたのです。ようやくそこに一軒の家が建っていることに気づきました。
私がいる道は田んぼと山に挟まれていて他の家は田んぼ側に建っています。なのにこの家は山側に建っていて「なぜこんな場所に家を建てたのだろう。住みづらいんじゃないか」と思ったのを覚えています。
家自体はバルコニーなんかもあって立派な家です。しかし雑草に覆われまるで人目を避けているような姿はなんとなく不気味な感じがしました。私は直感的に「この場所から早く離れたほうがいい」と思いましたが同時にこの家がなんなのか気になってしまったのです。
周りを調べてみると人が出入りできるような入口はどこにも無く、おそらく誰も住んでいない廃墟なのだろうと察しがつきました。一階の壁には落書きが見えたので誰かが侵入してイタズラしたのでしょう。
二階の窓は開いていてカーテンが揺れていました。気のせいでしょうか、カーテンが揺れるたびに誰かの視線を感じました。二階の窓に誰かが立ってこちらを見ているのではないか。そんなふうに考えると私は急に怖くなってその場を離れました。
帰ってからもあの家のことが気になって住所を頼りに調べてみました。するとあの家では借金を苦に家の主人が拳銃自殺をしていたことが分かりました。生命保険に入ったばかりで保険金目当ての自殺だったようです。しかし自殺では保険金が支払われないため残された家族に保険金が支払われることはなかったそうです。
家族はこの家を離れそのまま廃墟となってしまったのでしょう。家族を救うために自殺をしたのに結局家族を救うことができなかったご主人の無念が今もこの家に残っていると言われています。この家は「銃殺の家」となんとも物騒な名前で呼ばれています。
そう思うと二階から感じた誰かの視線はもしかしたら成仏できないご主人の霊だったのかもしれません。そういえばカーテンが揺れているとき、たしか風は吹いていなかったような気がします。今更ですがなんだか恐くなってきました。あの場所に行くことは二度とないでしょう。