現在の私が45歳で当時18~19歳頃の実体験で、S、K、自分の悪ガキ3人組で心霊スポットとして有名だったこの場所に面白半分で原付で行った時の話です。
夜に行く程の度胸は無く、それでも妙にイキりながら3台で走っていると、急に目の前にフェンスで囲まれた広大な駐車場が現れました。
誰かのいたずらか、その真ん中にポツンと置いてある車椅子を発見して、「ヤベー!」とか「超こえー!!」とか言いながら変なテンションで敷地沿いに走っていました。そして建物に近づくとフェンスの一部が何者かに破られていて中に入れるようになっていました。
もちろん不法侵入ですが、せっかく来たし昼間だと言う事もありビビりながらも中に入ってみる事にしました。
入り口のガラス戸は破壊されてガラスが周辺に散らばり、そこから見える内部は窓がないのか真っ暗でした。入り口からの光だけで奥の様子はハッキリしません。Sと自分はそれだけで怖気づいて入るのを躊躇していましたが、若干イキりっ気が強めだったKはズンズンと中に入っていきました。
「別になんともねーよ。早く来いよ。」
そう急かされ私たちも中へ入りました。中は思った以上に荒れていて、入り口近くにもかかわらず良く分からない紙やトレーが処狭しと散らかり、ハサミやピンセットみたいなものも落ちていました。
「2階があるぜ!2階から見てみようぜ!」
入口から入ってすぐが階段になっており、踊り場に飾りガラスがはめ込まれていて、そこから日の光が照らされているおかげで入り口が明るいのだとわかりました。
正直、真っ暗な1階を進むより明るい方に逃げたかった私とSは先にKが上っていった階段をビクビクしながら少し遅れてゆっくりと上がりました。
2階は入院施設だったのか、1階とは比べ物にならないほど外の光が差し込み、廊下を各部屋から明るく照らしていました。
20m位先をどんどん進むKは各部屋ごとに丁寧にのぞきながら
「ここなら全然住めそうだわー!」
とか調子に乗っていて、それを見た私やSも安心して少しイキり出そうとしたその時。私とSは同時にピタリと足を止めました。
階段から2つ目の部屋から明らかに何かが聞こえたのです。
瞬間、私とSは顔を見合わせ、気のせいにしようとしました。気のせいにしたかったんです。
しかしその時再び、はっきりと聞こえました。
男女のささやくような話し声が。中年の男女。何故かは分からないですが、絶対に中年の男女だと理解できました。
「!?!?!?!?」
私とSは声にならない叫び声をあげて、上がってきたばかりの階段をまさに飛び降り、入り口の割れたガラス戸から外に逃げ出すとそのまま原付に飛び乗り一気に近くの土手の様な高台まで逃げ出しました。
行く時には快晴だった空模様は、快晴のまま小雨が降っていて原付のシートをしっかりと濡らし、ジーパンを超えて冷たさが伝わってきました。
高台に着いたときに私とSは確認しあいました。
確実に2つ目の部屋からささやき声が聞こえたこと。
確実に中年の男女のささやき声だったこと。
確実に日本語ではなかったこと。
確実にその部屋はKが中を確認していたこと。
確実にKを置き去りにして、しかも「待って!!」とKが叫んでいたのを無視したこと。
確実にKが無事かどうかは運次第だから、迎えには行かないこと。
数分後、Kは小雨と涙でグッチャグチャの顔で高台にいる私たちに追いつき、我々に無言で1発ずつパンチしてきました。
無事でよかったね、K。
翌日、当時Kが使っていたガラケーに『#』から電話がかかってきていたのは、あのささやき声とは関係ないと信じています。