茨城県土浦市の郊外にあるという「終わらない葬式の家」。廃墟好きの友人に誘われ、私はその場所を訪れることになった。地元では有名な心霊スポットだと聞き、少し怖さを感じつつも興味が勝り車で向かうことにした。
夜の10時を回った頃、私たちはその家に到着した。車のヘッドライトに照らされた2階建ての木造家屋は、まるで暗闇に飲み込まれるような異様な雰囲気を漂わせていた。窓ガラスは割れ、壁には苔が生えており、ただそこに立っているだけで背筋が寒くなる。
「入ってみよう。」
友人の言葉に押され、私は恐る恐る中へ足を踏み入れた。懐中電灯の光が床を照らすと古びた家具や落ち葉が散乱しているのが見える。廃墟としてはよくある光景だったが、奥の部屋へ進むにつれ空気が異様に重く感じられるようになった。
2階に上がると、かつて「黒いリボンがかけられた遺影」が置かれていたという部屋が現れた。部屋に入ると壁にかけられた古びた写真立てが目に入る。写真そのものはすでに取り外されていたが、額縁の周りに何か焦げたような跡があった。
「ここだよ、遺影があったって言われてる場所。」
友人がそう言った瞬間、不意に背後から低いうめき声が聞こえた。振り返ったがそこには誰もいない。
「今、何か聞こえたよな?」
友人も動揺した様子で私を見ている。耳を澄ますと、今度は階下からひそひそ声が聞こえてくる。それはまるで複数の人が何かを話しているかのようだった。
私たちは階下に降りその声の主を探すことにした。しかし声が聞こえていたはずのリビングには誰もいなかった。すると廊下の先にある部屋の扉がギィ…と勝手に開いた。
扉の向こうを見るとそこには祭壇があり蝋燭が静かに揺れていた。さらにその奥には黒い着物を着た人々が整然と並び、無言でこちらを見つめている。
「出よう!」
友人が私の腕を掴んで叫ぶ。その瞬間、蝋燭の火が一斉に消え辺りは真っ暗になった。足音が何かに追いかけられるように響き、私たちは慌てて外へ逃げ出した。
その夜、帰宅後も不気味な感覚が続いた。鏡を見ると自分の肩越しに誰かが立っているような錯覚に陥る。友人も翌日から体調を崩し、数日間高熱に苦しんだという。
地元で調べてみると、「葬式の途中でこの家が廃墟になった」という噂のほか「家族全員が謎の病気で亡くなった」などの話が残っていた。これが真実かどうかは分からない。しかしあの時見た幻影と追いかけてきた足音だけは今でも忘れることができない。